ユネスコエコパーク(BR)とは
ユネスコエコパークは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が実施する「人間と生物圏(Man and the Biosphere:略称MAB)計画」の中心事業である「生物圏保存地域(Biosphere Reserves:略称BR)」の日本国内の呼称です。

ユネスコエコパーク(BR)は、ユネスコが認定する自然環境・生物多様性の保護・保全とそれらの持続可能な利用、すなわち、自然環境と人間社会の調和と共生を実現するための陸上・沿岸・海洋地域であり、“持続可能な発展※1”を学び、実践する地域です。
※1 持続可能な発展(Sustainable Development)とは、現代の世代が、将来の世代の利益を損なわない範囲内で、自然環境や資源を利用していこうとする理念。

世界には、134か国738件のBRが存在しています(2022年6月現在)。これらBRは世界BRネットワーク(The world network of biosphere reserves (WNBR))を形成し、自然環境、生物多様性の保護・保全と持続可能な発展を実現するための情報交換、人材交流等が行われています。

日本国内には10ケ所のBRが存在します(2022年9月現在)。

 登録年 No. 地 域 
 1980年 1 屋久島・口永良部島(鹿児島県) 
2 白山(石川県、岐阜県、富山県、福井県) 
3 大台ケ原・大峯山・大杉谷(奈良県、三重県) 
4 志賀高原(群馬県、長野県)
2012年 5 綾(宮崎県)
2014年 6 南アルプス(山梨県、長野県、静岡県)
7 只見(福島県)
2017年 8 祖母・傾・大崩(大分県、宮崎県)
9 みなかみ(群馬県、新潟県)
2019年 10 甲武信(埼玉県、東京都、山梨県、長野県)


図:日本国内のBR




MAB計画とその中心事業の生物圏保存地域
人類は、地球生態系の一員として他の生物と共存しており、自然環境や天然資源、他の生物の存在なくしては生きていけません。しかし、産業革命以降、世界中で人間の社会経済活動により自然環境・生物多様性が破壊あるいは大きく改変されてきました。
そうした結果、地球温暖化、森林破壊、砂漠化、公害、戦争、原子力発電所事故など様々な形で地球に生きる人間を含む生物全体の生存基盤が脅かされる事態に陥っています。

ユネスコはこうした情勢を受けて、1970年、人間と自然環境との調和の取れた関係を築き上げるための科学的な調査・研究、情報交換を行う国際協力事業として「人間と生物圏(MAB)計画」を発足させました。さらに、1976年、そのMAB計画の中で、地域の自然環境の保護・保全を図りつつ、それら自然環境や天然資源を持続可能な形で利活用することで地域の社会経済的な発展を図ることを目的とした生物圏保存地域(Biosphere Reserves:BR)制度が設けられました。

BRは、いわば、「人間社会と自然環境の共生を実践するモデル地域」として国際的に認知されるものです。日本国内では、BRの認知度を高めるため、「ユネスコエコパーク」という呼称を使用しています




ユネスコエコパークの目標達成のための3つの目標  
ユネスコエコパーク(BR)は、その目的である「人間社会と自然環境の調和と共生」を実現するために以下の3つの目標を掲げています。これら3つの目標は、それぞれが独立したものではなく、互いに補完し、強化しあう関係にあります。


(1) 自然環境、生物多様性の保護・保全
景観、生態系、生物種、遺伝的多様性および文化的多様性の保護・保全に寄与する
(2) 持続可能な環境・資源の利用を通じた地域の社会経済的な発展(地域振興
自然境環、天然資源を持続可能な形で利活用し、地域の社会経済的発展に資する
(3) 学術調査研究、教育・研修、人材育成
持続可能な発展のための学術調査研究、教育・研修、人材育成を行う





ユネスコエコパークの構造

ユネスコエコパークは、3つの目標を効果的に実行し、「自然環境と人間社会の共生」を実現するために 3 つゾーニング(地域区分)を行い、管理されることが特徴です。

A.核心地域
景観、生態系、生物種、遺伝的多様性の厳格な保護・保全を目的に設定されます。守るべき自然環境・生物多様性が対象となり、法律やそれに基づく制度等によって長期的に保護が担保される必要があります。

B.緩衝地域
移行地域の人間活動から核心地域を保護することを目的に核心地域の周囲に隣接して設定されます。核心地域に悪影響を及ぼさない範囲で、持続可能な、地域資源を活かした活動(エコツーリズム、学術調査研究、教育・研修 など)が行うことができます。

C.移行地域
人間の生活圏が対象となります。自然環境・生物多様性に配慮した産業活動や生活により持続可能な地域の社会経済的発展を目指す地域です。


 図:ゾーニング図




ユネスコエコパークの規制・制約、ソフトロー制度

核心地域と緩衝地域の設定の枠組みと利用の規制・制約には、根拠となる法律やそれに基づく制度等が必要です。ただし、ユネスコエコパークは、その設定にあたり新しく法制度を設けるものではなく、対象地域にある既存の法制度を用いる“ソフトロー制度”を採用していることが特徴です。

例えば、自然保護区や国立公園のような現存する保護地域を用いてゾーニングを行うことになります。つまりは、ユネスコエコパークに登録されることによって対象地域に新たな規制や制約が生まれることはありません。

ユネスコエコパークに利用される日本国内の既存法制度の例
自然公園法(国立公園、国定公園)
自然環境保全法(原生自然環境保全地域、自然環境保全地域)
国有林野の管理経営に関する法律(森林生態系保護地域、緑の回廊)   など



ユネスコ世界遺産との違い
ユネスコ世界遺産は、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約
(UNESCO Conservation on the Protection of the World Cultural and Natural Heritage)」に基づき、世界的に顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産を人類全体のための遺産として、損傷、破壊等の脅威から保護し、“保存する”ことを目的としています。

一方、ユネスコエコパークは貴重で優れた自然環境・生物多様性を保護・保全するだけでなく、そうした自然環境あるいは天然資源を持続可能な形で利活用を図ることでの地域の社会経済的な発展を図り、それらのための調査研究、教育、人材育成を行うことで“自然環境と人間社会の共生を実現する”ことを目的としています。



 
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