◆地理・地質
 只見ユネスコエコパークは、日本列島の本州東北地方南部、福島県の西端にあり、新潟県との県境に位置しています。会津朝日岳(1,624.2m)、浅草岳(1,585.5m)などを主峰とし、標高1,000m前後の山々に囲まれた山間地域です。域内には尾瀬沼を源に発する只見川と、同じく尾瀬の燧ケ岳付近を源に発する伊南川が流れ込み、只見町中心市街地で合流した後、流下しています。最低標高は只見川の只見町と金山町の境界付近の350m、最高標高は檜枝岐村との境界に位置する丸山岳1,819.9mであり、標高差は1,450m以上になります。

 只見ユネスコエコパークの南部は、泥岩、砂岩、チャートなどからなる古生代から中生代の堆積層が分布し、只見川および伊南川左岸線、域内の北部および東部は、新生代中新世の海底火山の噴出物が堆積してできた緑色凝灰岩(グリーンタフ)が広く分布しています。また、田子倉の白戸川流域には花崗岩が見られます。こうした地質的な特徴は、この地域の地形形成に大きく関係しています。




◆気候

只見ユネスコエコパークの気候は、最暖月(8月)平均気温が25.5℃、最寒月(1月)平均気温が-0.7℃、平均年間総雨量は2,284.7㎜になります。ケッペンの気候区分 における温帯多雨夏高温気候区(Cfa)に区分され、日本海気候に属しています。夏季は温暖多湿であり、冬季は日本海の湿った空気を大量に含んだ季節風が流れ込み、脊梁山脈にあたって多量の雪をもたらし、平均最大積雪は200㎝、平均年間降雪量は1,200㎝に及ぶ日本有数の豪雪地帯でもあります。

※気象観測値は、只見ユネスコエコパーク内の気象庁アメダスによります。


冬の只見ユネスコエコパーク市街地の様子(移行地域内)




◆植生

 この地域はブナ林をはじめとする温帯性落葉広葉樹林が生育する山地帯ですが、冬季の豪雪と、比較的脆い性質の緑色凝灰岩(グリーンタフ)の地質的な特徴により、山体の斜面が削り取られて、基岩は露呈し、急峻で複雑な「雪食地形」と呼ばれる地形構造が卓越し、様々な立地環境(尾根、斜面、谷など)がモザイク状に形成されています。

雪食地形とモザイク植生 山肌を削る雪崩


 さらに、それぞれ立地環境の上に、それぞれに適応した植物群が生育し、「モザイク植生」と呼ばれる景観を形成しています。尾根には馬のたてがみのように並ぶキタゴヨウ、クロベの針葉樹林、雪崩の多い斜面にはミヤマナラ、マルバマンサクなどの低木林や草付き、斜面下部の安定立地にはブナ林、谷沿いにはトチノキ、サワグルミの渓畔林が成立しています。こうした植生構造は標高1,000m以下の山地帯では極めて珍しい上に、当地域ではほとんどが人手の加えられていない自然度の高い状態にあり、しかも50,000ha以上の広大な面積に存在しています。

キタゴヨウ林

低木林

ブナ林 トチノキ・サワグルミ林

 

 只見川と伊南川沿いには、ヤナギ類が優占する自然度の高い河畔林が連続的に見られます。この河畔林には希少樹種のユビソヤナギが生育し、当地域は日本最大の自生地の一部を形成しています。

伊南川沿いに成立するヤナギ林
 

落葉広葉樹二次林には、かつての薪材生産を目的とした冬季の雪上伐採と台伐り位置からの萌芽幹を繰り返し利用することで形成されたあがりこ型樹形のコナラの巨木群が存在します。

 コナラのあがりこ型樹形は全国的に珍しい上に、只見地域のような多雪地帯における雪上伐採と萌芽更新による薪炭林施業によって生み出されたものであり、この地域のかつての森林利用の一形態を示す歴史的な遺産と言うことができます。この他、地際からの萌芽による製炭材の生産と台伐り萌芽による薪材生産を同時に行った結果生まれた極めて珍しい複合型のあがりこのブナも見ることができます。

コナラあがりこ林(黒沢) 複合型のあがりこのブナ(蒲生)



◆動物相

変化に富んだ植生構造と発達した森林群集は、多様な動物種の生育を可能にしています。
 只見町内(只見ユネスコエコパーク内の約96%を占める)で確認された種数は哺乳類が15科32種、鳥類44科145種、両生類6科14種、爬虫類4科10種です。昆虫類については2000種以上が確認されています。

 生態系ピラミッドの頂点に立ち、豊かな生物相の存在が生息条件となる猛禽類のクマタカ、イヌワシ、大型哺乳類のツキノワグマが高い密度で生息しており、それらの存在は、只見ユネスコエコパークの自然環境の豊かさを象徴していると言えます。また、クロホオヒゲコウモリやコテングコウモリなどの森林性のコウモリ類など希少動物も生息しています。2014年には、域内で新種サンショウウオのタダミハコネサンショウウオが発見されています。

ツキノワグマ

イヌワシ

ニホンカモシカ タダミハコネサンショウウオ



◆植物相

只見町内(只見ユネスコエコパークの約96%を占める)では、維管束植物は140科1,109種が確認されています。フクジュソウやカタクリ、コシノコバイモ、キバナノアマナなど、他の地域では、身近に見られなくなった植物種が、大きな群落で残されているのもこの地域の特徴です。

 浅草岳や会津朝日岳の山頂部の雪田草原や雪食地形の急な岩場斜面やガレ場の尾根には、日本固有種で、宮城県南部及び新潟県、福島県、山形県の県境である飯豊連峰、吾妻山、守門岳周辺にしか分布しない希少種ヒメサユリの自然集団が存在し、日本最大の自生地となっています。また、域内を流れる只見川・伊南川流域の河畔林は、希少樹種ユビソヤナギの国内最大の自生地の一部を成しています。


雪崩斜面のガレ場に自生するヒメサユリ


早春に開花するユビソヤナギ(♂)




 
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